猫の湯~きみと離れていなければ~

―― カシャッ


わたしが副会長を動物病院に連れて行って欲しいと頼もうとしたとき、カメラの乾いたシャッター音が響いた。


「うわひどーい! これあんたがやったの? 」
「メチャクチャじゃん。動物虐待とかまじ最低だね。副会長かわいそー」


美穂と久美子がその生徒たちの中にいた。
心配で駆けつけたというよりは、騒ぎが気になって面白半分で見にきたという感じ。


2人は散乱しているこの状況を写真に撮ったらしく、もちろんそこにはわたしも写っていると思われた。


「虐待? …違うよ、カラスが」

「証拠写真ゲット! めっちゃスクープじゃん。ネットにアップしちゃおっか? 」
「いいじゃん、それ。泥棒猫が猫を虐待とかちょーありえなくない? 逢坂くんにあんたの本性教えてあげないとねぇ」


この人たち何を言っているの?

わたしが副会長を虐待したってこと?

ネットに出す?


わたしは全身から血の気が引くのを感じた。

確かにこの状況だけを見れば、わたしが箒で副会長を叩き、家をめちゃくちゃに破壊したと思われる。


周りにいる人たちも

「最低だな。酷いことするのやめなよ」
「副会長こっちにおいで。ケガしてない? 」

と片付けを始めながら口々に言い始めた。


「今度は動画で」
「風森さん、こっち向いてぇ」


美穂と久美子はゲラゲラ笑いながらもう一度わたしにスマホを向けた。


「やっ、撮らないでよっ! 」


わたしはたまらなくなり、その場から走って逃げ出すことしかできなかった。

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