猫の湯~きみと離れていなければ~
わたしはうつむいたまま、とぼとぼと家に向かって歩いていた。
風に散る桜の花びらが足元で気を引くように舞っても、美しいとも感じない。
今頃、美穂と久美子はわたしのことを好き勝手に言っているに違いない。
逃げずにあの場にいた人たちに説明すればよかったのかもしれない。
だからといって今更戻っても…
それにすでにネットでわたしを晒しているかもしれないし。
「…ぅ、……痛いよ」
悔し涙が頬の傷にしみていく。
泣きたくなんかないのに。
背後からわたしを呼ぶ声と走ってくる足音が聞こえてきた。
振り返らなくても誰かは分かる。
…陽向
でも、こんな惨めな姿は見られたくない。