猫の湯~きみと離れていなければ~
陽向を置いて歩き始めたわたしは、腕をしっかりと掴まれて動きを止められてしまった。
「こら、あんまり動くなって」
「離してよ。子供じゃないんだし一人で帰れるわよっ! 」
嘘。
本当は陽向に側にいてほしい。
話を聞いてほしい。
でもそれは陽向が仕方なく相手をするだけ。
だから頼ってはいけないの。
だから、こんなに辛いのにっ
「なんで? なんでこんな思いしなきゃなんないの? 」
「鈴、何があった? 」
「こんな町、戻ってくるんじゃなかった! 」
感情が高ぶって思わず声を張り上げてしまっている。
気持ちを押さえることができなくて、陽向に答えることもできない。
そうよ、ここに戻って来なければ陽向と莉子を見せつけられるようなことも、あの人たちに酷いことをされることもなかった。
傷つくことなんてなかったのに。