猫の湯~きみと離れていなければ~
「鈴、こっちを向いて…」
わたしの両肩をしっかりと持った陽向は、目を合わせて話を聞こうと顔を覗きこんでくる。
傷がついてて、泣いている所なんて見られたくない。
そんなことも分からないの?
わたしは思いきり拒絶するように顔を背けた。
「見ないでよっ! 陽向には関係ないんだから。幼なじみってだけで馴れ馴れしくしないでよっ」
「は? 何を言って、 」
「誰のせいでこんなっ、だから戻ってきたくなかったのにっ、…もう放っておいてっ」
陽向にこんなこと言いたくないのに。
でも、もうどうでもいいっ
怒らせて嫌われるほうがきっと楽になれる。
これで陽向がわたしを避けてくれるのならそれでいい。
「本当に離してよっ」
強引に陽向の腕を振りほどくと、わたしは走って家に帰った。