猫の湯~きみと離れていなければ~
「さぁ行こうかしらね。先に車に乗ってて」
何枚も色んな角度から撮影をしていたママは、やっとご満足いただける写真が撮れたらしく、スマホをいじり始めた。
「パパに絶対に人に見せないでって言っておいてよ、…きゃっ! 」
もう一度念を押しながら玄関を出たとたん、目の前を黒い塊が横切った。
その途端、冷や汗が全身を覆いつくしてゆく。
それはどこからどう見ても猫。
わたしがこの世で一番大嫌いな「猫」と呼ばれる生物。
「なに、どうしたの? 」
「あ、あれ! 」
娘のピンチに驚いた様子もなく出てきたママ。
震える指で教えると、丸々と太った黒い猫は両足を投げ出したようなふてぶてしい態度でどっしりと座り、たぷたぷとしたお腹をなめて毛づくろいを始めている。