猫の湯~きみと離れていなければ~

クスクスとわたしと笑いあっていたママだったけど、急に真剣な顔になった。


「…ママ? 」


また何かあったのかと心配になってくる。


「ねぇ鈴、こっちに引っ越してきてよかった? 」

「…どうして? 」


ママは少し眉を寄せると、わたしの頭をなでながら聞いてきた。


「パパとママね、本当は小学生のときに鈴を転校させるんじゃなかったって後悔してたの。あんなに元気いっぱいで明るかったあなたが塞ぎこんじゃって…」


ママにそんな悲しそうな顔をさせてしまうのはわたしのせいなんだね。


「本当は向こうでかえちゃんたちと同じ高校に行くほうがよかったんじゃないの? 」


前の家に戻って、友達のいる高校に転入してもいいってこと?


本当はそうしたかった。


でもママがこの町に戻りたがっていたのは知っていたから言い出せなかったの。


なんて言えるわけない。


「鈴はつらいときほど何も話してくれないじゃない? 変なところで頑張り屋さんだからママは少し寂しいかな」



でもこの気持ちを伝えたらママがつらくなるよ?


そんなのはわたしが嫌なの。
わたしが我慢すればいいだけだから。


そう思っていることでママを『寂しい』と思わせているのなら、なんて答えたらママは喜ぶの?
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