猫の湯~きみと離れていなければ~
「とぼけないでよ! あんたがわたしの前に現れるときは決まって不幸がおこるのよっ! 」
「言いがかりも甚だしいぞ。 挨拶もなしに俺の縄張りに入りこんできて、散歩コースをうろついてる分際で。貴様の運の悪さを俺のせいにするな。くだらん 」
「…くだらん? さっきからその態度はなんなのよ? 黒猫が横切ると縁起が悪いって知らないのっ? 」
「あー出た出た。その根拠のないくだらん迷言にはどの黒猫も迷惑しているんだがな」
副会長はしっぽをパタンパタンと床に打ち付けはじめた。
まさか猫の方がわたしにイラついているわけ?
偉そうに上から目線で言い返してくることにも腹が立ってくる。
黙らせてやるんだからっ
「それにお前たち人間と違って猫は、特に黒猫は賢くて気高くて気品溢れる……って何するにゃ? やめ、やめ、あぁ~~、ゴロゴロゴロゴロ」
わたしにたぷんたぷんのお腹と喉をわさわさとなでられると、副会長は恍惚の表情でひっくり返り、体をごろんごろんとくねらせ始めた。
喋ろうがどうしようが所詮は猫なのよ。
「これのどこが気高くて気品溢れる姿なわけ? はい、おしまい。じゃあね」
触りながら副会長のケガの具合をみたけれど、傷はもうどこにも見当たらなくて、ホッとした。
「ひ、陽向のとんぼ玉っ! …ゴロゴロ~」
再び立ち上がって体に戻ろうとしているわたしに、なでられた余韻を振り払いながら副会長は声を絞りって叫んだ。
「…なんで知ってるの?」
「ゴロゴロ~、だ、だから俺の話を聞けと言っているだろうが」