猫の湯~きみと離れていなければ~
「ここどこっ? やだ、何が起きたのっ? 」
確かに今のいままでベットに座っていたのに。
瞬きすらしていないのに目の前には、巨大な赤い提灯と大きな門。
浅草寺なの?
と思えたけれど提灯には“雷”ではなく“猫”と書かれている。
そして、門の左右には金と銀の招き猫の像があり、右側の金の招き猫は右手、左側の銀の招き猫は左手をあげている。
この門以外、辺りは濃い霧に包まれていて何も見えない。
「何をしたの? ここはどこなの? 」
「いちいち騒ぐな。移動しただけだろう? 」
「だからどうやって? 」
まったく状況が飲み込めないわたしに簡単すぎる説明をした副会長は、紺と黒の縦縞の渋い羽織を肩にかけ下駄をカランコロンと鳴らしながら、巨大提灯の下をくぐり抜けていった。
「なんで2本足で歩いているの? その格好はなに? 」
そう言うわたしもパジャマ姿だったはずなのに、いつの間にか学校の制服と靴を身につけていた。
これも副会長の仕業になるの?
「ねぇ、ちょっと待ってってばっ」
疑問だらけのこんな所で置いていかれたら、途方に暮れてしまう。
わたしは副会長を追って巨大提灯をくぐり抜けた。