猫の湯~きみと離れていなければ~
「猫だらけかと思ったけれど、人間もいんるだね」
睡蓮マークの入った旗を持った添乗員に先導されている、15人ほどのツアー客とすれ違った。
ビデオを回したり、写真を撮ったりとしていたので、わたしが知らなかっただけで、副会長が言うようにここは知られた場所なのかもしれない。
「人間といえば間違いはないが、あいつらは元人間だぞ。よく見てみろ、お前のように繋がっていないだろう」
そう言って副会長はツアー客の足元を指した。
そしてわたしは自分の足元と比べることになる。
ツアー客の足元からは何も出ていない。
でもわたしの足からは銀色の紐が、というよりも、糸みたいに細くなった紐が出ている。
「あーっ! これって切れないのっ? 」
すっかり忘れていた。
わたしの魂と体をつないでいるとかいうやつ。
わたしの驚いた大声に、副会長はその場でビクッととびあがった。
そのせいでしっぽが3倍ぐらいに膨れ上がっている。
「猫の前で大声出すのはご法度にゃ! お前はそんなことも知らないのか? 」
知るわけがない。
それに副会長の方が声が大きいし。
でもそんなことよりもわたしは糸が切れるのが怖くて、その場から動けなくなった。
だってまだ死にたくはない。