猫の湯~きみと離れていなければ~
副会長は歩いている一人のおばあちゃんを指した。
その人の足からは銀色の糸は出ていない。
ということは副会長がいう『幽霊』で『あの世の住人』なのだろうけど、定番の白い着物と三角の頭飾りは身に付けていない。
割烹着とサンダル姿で、怖いって印象はまったくなかった。
おばあちゃんは何かを探すように辺りをキョロキョロとしている。
「あの人は何をしているの?」
「一緒に住んでいた猫を探しているんだろう」
「飼い猫ってこと? 」
おばあちゃんは焼き魚屋の行列の前でピタっと足を止めた。
「…タマかい? 」
先頭から5番目に並んでいた三毛猫がおばあちゃんの声に振り返ると、焼き魚を入れるために持っていたお皿をガチャンと落とした。
「あんた、タマだね? 」
「にゃーんっ」
呼び掛けに答えた三毛猫はおばあちゃんに駆け寄ると胸に飛びつき、抱きしめあって泣き崩れた。