猫の湯~きみと離れていなければ~

「そんなことより少し急ぐぞ。お前の歩みに合わせていたら日が暮れる」

「ねぇ、わたしはどこに連れていかれるの? 」

「百聞は一見にしかず」


それはそうだけど、多分説明するのが面倒くさくなってきただけのような気がする。


それからしばらく歩いていると、副会長が急に小声で話しかけてきた。


「鈴、あそこの連中には近づくな。話しかけられても立ち止まるなよ、…いいな」


副会長が視線を送る先には『スーパー銭湯 龍宮城』と書かれたのぼりがいくつも並んでいる。
その前では、派手な蛍光色の法被を着たガラの悪そうな3匹の黒猫たちが、道行くあの世の人たちに声をかけていた。

中には無理矢理に店内に引き込まれてしまう人も。


「黒猫友達とかじゃないの?」

「一緒にするな。全く、いつ来ても町の景観を損ねる下品でくだらん建物だな」


確かに副会長の愚痴るとおりだった。


白い壁に真っ赤に塗られた瓦屋根は独特な形で、昔話に出てくる竜宮城をモチーフにしているみたいだけど、洋風のバルコニーがあったり変な位置にシャチホコがあったりと、他のお店とは全く違う奇抜な5階建てだった。

そして入り口正面にでかでかと掲げられている看板には“龍宮城”と書かれ、赤、緑、黄色のクリスマスカラーの点滅電飾で縁取られている。
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