猫の湯~きみと離れていなければ~
まず目に入ったのは「猫の湯」と書かれた古びた高い煙突。
その下には、木の塀に朝顔が咲き誇っている趣きのある日本家屋があって、赤い暖簾が風に揺れている。
瓦屋根の真ん中には黄金色の鳥の像が2つ並んでおり、茶色の猫がせっせと磨いていた。
わたしたちに気づいたその猫は、礼儀正しくペコッと頭を下げると、また磨き作業に戻った。
「ここって銭湯?」
「そう、隠れ家として有名な“猫の湯”だ」
「有名なら隠れ家にならないんじゃないの? 」
「誰も知らなかったら商売にはならないだろう」
変な理論でわたしを納得させた副会長は暖簾をくぐった。