猫の湯~きみと離れていなければ~

「いらっしゃいませにゃん。あ、長さん」

「よう、宮(みや)。女将を呼んでくれ」


番台に座っているのは緑色の瞳をしたキジトラの猫だった。耳の横に挿しているたんぽぽの花がよく似合っている。


「もしかしてその人にゃん? 」


宮と呼ばれた猫はわたしに気づくとにこっと笑って丁寧に頭を下げた。
営業スマイルとは違う、親しみを込めてくれてる笑顔にわたしも笑顔で答えた。


「はじめまして、宮と申しますにゃん。上からでごめんにゃん」

「はじめまして、風森 鈴です」

「すぐに女将を呼ぶのでお待ちくださいにゃん」


そう言うと宮はスマホを取りだし器用に使いはじめた。


「もしもし母様? 長さんが着いたにゃん…、うんうん、」


わたしは通話の邪魔にならないように小声で副会長にたずねた。


「猫ってスマホも使えるの?」

「…当然だろ? 」


あ、また何か変なことを聞いてしまったっぽい。
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