猫の湯~きみと離れていなければ~
「女将はすぐに参りますのでそちらにお掛けになってお待ちくださいにゃん」
電話を終えた宮は、番台近くの長椅子に座るようにうながした。
副会長の横に腰かけたわたしは落ち着かず、周りをキョロキョロと見ずにはいられなかった。
全てが猫用と人間用、正確にはあの世の人用の大きさに合わせてあるらしく、脱衣かごに椅子のマッサージ機、吸い上げ式のドライヤーなどの設備は大小揃っている。
猫専用と書かれたガラス張りの冷蔵庫には
“ヤギ乳冷えています”
とポップがついていて、ヤギ乳・フルーツヤギ乳・コーヒーヤギ乳・大麦若葉ヤギ乳と種類分けされた瓶がいくつも並んでいる。
浴場への入り口の曇りガラスの扉には、入浴に関する規則と注意事項が書かれているようだが、この位置からは見えにくかった。
「ねぇねぇ、どうして牛乳じゃなくてヤギのミルクなの?」
「おいおい、そんな常識さえも知らないのか? お前たちは学校で一体何を教わっているんだ? 猫は牛乳で腹を下しやすいからに決まっているだろうが」
冗談じゃないという風に、副会長は驚いた顔になった。