猫の湯~きみと離れていなければ~
「今は鈴の湯治が最優先っ! 」
おさまりのつきそうにない遇に、副会長は声を強めた。
「ああ、…ああ、そうさねぇ。客がいない間に一番風呂に浸かった方がいいねぇ」
ハッと気づいた遇は元の大きさに戻ると、先程の口調に戻った。
「どうせ客なんか来やしないだろうけど、宮、あんたは暖簾を下ろしておいで。あ、倫(りん)、ちょっと来な 」
雑巾の入ったバケツと運んでいる猫をみつけると、遇は手招きして呼んだ。
その猫は呼ばれたのが嬉しいらしく、運んでいたバケツを置く、というよりも放り投げると、しっぽをピンっと立てて駆けってきた。
「こらっ! 店の中では走るなと言ってあるだろう? 」
「にゃっ、ごめんなさいにゃ」
ぎゅっと目をつぶり耳を下げたこの猫は、さっき屋根の上で掃除をしていた茶色い猫だった。