猫の湯~きみと離れていなければ~
「鈴さん、ではお召し物は部屋に運んでおくにゃん 」
「うん、ごめ、…ありがとうね」
思わず『ごめん』と言いそうになって言いかえた。
完全に謝るのが口グセになっている。
意識して変えていかないと。
「本当にお背中お流ししなくてもいいにゃん? 」
「大丈夫、大丈夫。本当に大丈夫だから」
脱衣場から声をかけてくる宮は、これで3回目の確認だった。
女将の遇からの言いつけみたいだけれど、裸を見られてしまうのは、例え相手が猫だとしても恥ずかしいから、断固お断りをしている状況。
「では番台にいますから、何かあったら遠慮なく声をかけてにゃん」
「はーい」
やっと諦めてくれたっぽいかな?
これでようやく体が洗える。
ひのきのイスに座り、しゃがむようにして体を隠していたわたしは、やっとお湯の蛇口に手を伸ばせた。
富士山が描かれている壁。
ずらっと並んでいる蛇口と鏡。
積み上げられた桶のピラミッド。
水色のタイルが張ってある床。
銭湯ってはじめて来たけれど、この猫の湯はテレビとかで見たことのある昔ながらの銭湯って雰囲気そのものだった。