猫の湯~きみと離れていなければ~
今度は校門の前ほどではないけれど、クラス表が貼られている掲示板の前が、新入生とその家族でぎゅうぎゅうな人だかりを作っていた。
それを見たママの歩みがピタリと止まる。
「あーママ無理、あんな中に絶対に入りたくなんてない。ここで待ってるから見てきなさい」
「はーい」
あの人だかりに入れば、新調したばかりのフォーマルスーツとお気に入りのヒールが何かしらの被害を受けると予知したんだと思う。
こういう危機回避能力はズバ抜けているんだから。
ママはさっさと近くのベンチに腰かけた。
そしてバッグからスマホを取りだしながらも、足が綺麗に見えるように斜めに揃え直したのを、わたしが見逃すはずもない。
家でそんな仕草、絶対にしないくせに…
ママは、わたしに手を振りながら誰かに電話をかけ始めた。
その相手はだいたい想像がつくし、きっとすぐに会えると思う。