猫の湯~きみと離れていなければ~
「鈴、ちょいとお邪魔するよ」
そう言いながら女将の遇が遠慮なく入ってきた。
その手にはノコギリは握られてはいない。
「遇さん、ぅ、…これ違うの。泣いてないから」
裸が恥ずかしいなんて気にすることよりも、今は泣き顔見られることを避けたい。
「それでいいんだよ、たくさん泣きな」
遇は着物が濡れるのなんておかまいなしに湯船の縁に腰かけると、わたしの頭をしっかりと抱き寄せてくれた。
「もしかして、…知ってるの? 」
わたしの問いかけに遇はポンポンと優しく背中を叩く。
そっか、知っているんだね。
「あんたのせいじゃないんだよ」
「でもわたし、…わたし、」
遇さんの胸が安心する。
わたしはとうとう声を出して泣き出してしまった。