猫の湯~きみと離れていなければ~

出発の時間が近づいてきて、泣きながら家に戻ったけど見送ってくれる人たちにお別れもできずに、行きたくないって泣き叫んでいた。

陽向以外は猫ちゃんのことは知らないから、わたしがお別れを嫌がって泣いているんだと思っていたはず。


結局、押し込まれるように車に乗せられたの。

「降ろしてっ」って過呼吸になるまで泣き叫んでいた。


あきらめきれなかったわたしは、次の日にパパとママの目を盗んで、引っ越しで空になっている段ボール箱をひとつ抱えて初めて一人で電車に乗ったの。

知らない町で知らない人に駅の場所を聞きながらたどり着くのは不安で仕方なかったけど、猫ちゃんに会いたい一心だった。

住んでいた町の駅の名前ぐらいは覚えていたけど、そこから住んでいた町内までは子供の足ではかなり遠くて、神社についたときは夕方近くになっていたっけ。


本殿の下にあった猫ちゃんの家はどこにもなくて、境内を猫ちゃんって呼びながら探していたら、あのおじさんがやって来たの。


「このクソガキがっ」


っていきなり怒鳴られた。


「ここに来るなと言っただろ! 親に連絡するから名前を教えろっ」


ってね。

もうね、赤鬼とかなまはげって思うぐらいすごい形相だった。
この人は本気で猫が嫌いなんだと思ったの。
< 192 / 328 >

この作品をシェア

pagetop