猫の湯~きみと離れていなければ~
「たしかにお前と陽向は無責任なことをした。そのせいで迷惑をかけられた人がいたのは確かだし、反省をするべきところはある。しかしだな、子猫を助けたいと思った気持ちを否定することは俺にはできない」
「でもっ、」
「それにだ…」
わたしの言葉をさえぎって、副会長は話を続けていく。
「わざと心を傷つけるようとするくだらん人間の言葉など、聞く価値もない」
「でも事実だよ。わたしのせいであの子猫は殺されてしまったから」
猫ちゃんの感触がよみがえってくる。
小さくて、やわらかくて、あたたかくて。
まもってあげたいと思った小さな命を、わたしが奪ってしまった。
「では聞くが…」
副会長はそれまでの強い口調から、諭すような優しい話し方にかわった。
「お前には、お前のことを思い心配している宮や倫の気持ちは届いてないのか? その人間の言葉を真に受けているのなら、どうしてこいつらの言葉も受け止められられないんだ?」
……わたしを思い心配している?
宮と倫はわたしにうんうんとうなずいている。
『感謝しているにゃん』
『幸せな時間を過ごせたにゃ』
その瞬間、わたしの心をガチガチに固めていたなにかが、パリンっと音をたてて崩れていった。