猫の湯~きみと離れていなければ~
「ちょいと宮っ、倫っ! 鈴様を呼びに行くのに何時間かかっているんだいっ!」
この場の空気をぶち壊すように、遇がドカドカと廊下を鳴らしながら大股でやってきた。
その横には、靴下でも履いているような手足の白い茶トラの猫がいる。
「母様ごめんなさいにゃん。お話に夢中になってて」
宮は申し訳なさそうに頭をさげたが、倫はたんこぶをおさえながら、茶トラ柄の猫に「シャーッ」と威嚇をしている。
甘えん坊の倫がこんな態度をとるのに驚いてしまったけど、負けずに相手の猫もしっぽをパタンパタンと床に叩きつけながら「シャーッ」と威嚇し返してきた。
かなり仲が悪いみたいだし、さっきの倫の悲鳴とたんこぶの原因はこの猫にありそうだった。
「兄様、やめてくださいにゃん。鈴さんの前ですにゃん」
「そんなのしるかにゃっ。なんの取り柄もないクソ猫に可愛いお前を任せられるわけがないにゃ! 俺は断じて許さんにゃっ! 」
宮が困ったように訴えたけれど、兄様と呼ばれた猫は全くひく気はなさそうで。