猫の湯~きみと離れていなければ~
「鈴、その横の虎猫は女将の息子の仁(じん)だ」
「鈴といいます。お邪魔しています」
ということは遇一家ってことだよね。
親が遇で、子供が仁と宮。
副会長が紹介をしてくれたので、わたしはペコリと頭をさげてあいさつをしたけれど、仁は無愛想に「にゃ」と言っただけだった。
「愛想がなくてすみませんねぇ」
仁をフォローする遇の愛想笑いはハンパない気がするけど。
「女将、鈴が困っているから普通にしゃべったらどうだ? 」
見かねた副会長がはっきりと言ってくれると、遇は予想外というようにわたしに顔をむけてきた。
「でも無礼ではございませぬか? 」
「ううん。ぜんぜん無礼ではございませぬ。普通でお願いいたしまする」
なんだかこっちまで変な言葉使いになってくる。
「…そうかい? そんなに言うならそうするけどねぇ」
少し残念そうに袖から手を離すと、やっといつもの女将に戻ってくれて、ここにいる全員がホッと胸をなでおろした。