猫の湯~きみと離れていなければ~
「それで、なにかあったの? 」
「あんたに頼みたいことがあるんだよ」
そう言いながら、遇は部屋の座卓の上をチラチラとみている。
「わたしにできることってなにかあるの? もしかして、子猫の忘れ物のこと? 」
あの忘れ物を見たとたん、倫は駆け出していったけど。
あのとんぼ玉にどんな意味があるんだろう。
「それを見せてもらえるかい? 」
「うん」
やっぱりとんぼ玉のことなんだ。
そうだとしても、わざわざ正装をしている意味が分からないし。
立ち上がろうとするわたしを止めると、副会長が取りに行ってくれた。
「これは本物に間違いない」
副会長は手にとって光に透かしながらとんぼ玉を確認すると、赤い布を取り出し丁寧にその上に置いて女将に見せた。
そして女将を筆頭に、ここにいる猫たち全員がありがたそうに手を合わせて頭を下げた。
「それは何なの? 」
みんなふざけているのかと思うほどに真面目な顔をしている。
話がわからなくて少しだけ寂しい気持ちになってしまう。