猫の湯~きみと離れていなければ~
「あつかましいお願いだとは承知しているんだけれどねぇ。鈴がよければ、…よければだよ? 」
そこで遇は口ごもってしまった。
「なーに? わたしにできることは何でもしたいから遠慮なく言って」
「…実はねぇ、猫玉を譲ってほしいんだよ。もちろんお礼はたんまりと考えているんだけれどねぇ 」
ああ、そうか家内安全、商売繁盛。
そして万年健康、だっけ?
閑古鳥の鳴く猫の湯には置いていたいに決まっている。
「でも猫玉はわたしのものなの? 」
「そりゃそうさね。招き猫様はこれまで1度も現れたことはなかったんだよ。鈴が遊んであげたのがうれしくてお礼においていかれたんだよ」
…遊んだ。
というよりは命をかけて遊ばれたというのが正しいのかもしれないけれど。
でもそれだけであんなたいそうな物をくれるわけ?
金と銀が神レベルなら、わたしには必要もなく使い道もないすごい物をくれたりする?
やっぱりわたしには『贈られた』という自信がないから、はいどうぞなんて簡単には言えない。