猫の湯~きみと離れていなければ~
尾頭付きの立派な鯛がいい感じに焼けている。
塩はふってなさそうなので、猫用なのが分かる。
「倫、どうして鯛を持ってきたにゃん? 招き猫様に骨が刺さったら危ないにゃん」
宮はあわてて倫にかけよったけれど、倫はにこにこ笑っている。
「でも金さまと銀さまは鯛めしのおにぎりを食べてくれたにゃ。きっとお好きなんだにゃ」
そういって倫はわたしを見た。
「うん、おいしいってすごくよろこんでいたよ」
倫はうなずくと、丁寧に骨を取りながら食べやすいように身をほぐしはじめた。
そしてきれいに器に盛るとそれぞれの像の前に供えた。
「これで大丈夫にゃ。いつも同じ魚ばかりじゃお気の毒にゃ」
「ねぇ倫くん、またわたしに鯛めしのおにぎり作ってくれる? 昨日は食べそこねちゃったから」
「お安いご用にゃ! 鈴のために今晩は鯛めしにするにゃ」
「倫の鯛めしは絶品にゃん。あの兄様でさえ文句を言わずに食べるにゃん」
宮にほめられると、倫は自慢気にひげをピンとはって、目を細めた。
「じゃあご挨拶も終わったし戻ろうにゃん」
「帰り道に魚屋に行くにゃ」