猫の湯~きみと離れていなければ~
「倫くん、ここにおいで」
わたしは倫を抱えるように膝の上にのせると湯呑みを渡した。
倫はそうとう喉が渇いていたらしく一気に飲み干してしまった。
すかさずブラックシャークが猫用のお茶を注ぎ足してくる。
「ありがとうにゃ」
「どういたしましてにゃ。ごゆっくりどうぞにゃ」
完全におもてなしモードにはいっているのか、さっきまでの対立関係はもうなくなっているみたい。
倫と仁もこれぐらいすぐに仲良くなってくれたらいいのに。
「それで、どうして浦島太郎をさがしているの? 」
わたしは倫をなでながら虎に向き直った。
「もう何十年も前の話だがな。ここを宣伝目的で、真面目で周囲から信用のある者を探していたんだ。それが猫だろうが人間だろうがなんでもよかった」
虎はどっしりとあぐらをかくと、お茶を一口飲んだ。
「確か太郎は3人目の宣伝用の人材だったよな? 」
「最初は猫、その次はあの世在住の人間の女と聞いていますにゃ」
「太郎は過去から虎の兄貴が試験的に連れてきたと聞いていますにゃ」
「時間をさかのぼれる兄貴はすごいですにゃ」
虎の問いかけにブラックシャークは持ち上げる答えを返した。
猫社会でも社交辞令はあるみたい。
うむっと納得したようにうなずいた虎は話をつづける。