猫の湯~きみと離れていなければ~
話を聞いていた倫が、ぎゅっとわたしの手を握りしめながら心配そうに顔を見上げている。
「大丈夫よ。長さんには何か考えがあるんだよ」
わたしは微笑むと倫に言い聞かせるように、そしてわたしにも言い聞かせるようにうなずいた。
虎が太郎を連れてきたってことは、少なからずそんな能力をもっている猫又がいるってことが推測できるから。
そうなると、わたしをこの状態にしたのはやっぱり副会長で間違いなさそう。
そんなリスクがあるのに、わざわざ落とし物を受け取るためにわたしをここに連れて来たわけ?
猫嫌いのトラウマを無くすために、ここまでする必要があったの?
「話がそれたな」
虎はゴホンっと咳払いをすると姿勢を正した。
「そしてその時がやってきた。それまでは時間は止まってるほどに緩やかだったが、突然、濁流のように荒れ狂い、こちらとお前たちの世界の時間の流れが逆になってしまった」
「時間は生きているって長さんが言ってた」
「それは教えているんだな」
虎はあきれたような顔をしながら話を続けた。