猫の湯~きみと離れていなければ~

「今はこちらの1日がお前の世界では数時間ぐらいだが、そのときは酷いもんだったよ。こちらの数時間が向こうでは数十年にもなっていた」

「…そんなに」

「今思えば、俺が時間をさかのぼってしまった反動だったのだろう。そのままでは太郎の体は確実に滅びてしまう。それだけは絶対に避けなければならなかった」


それはそうだよね。
他人事の話じゃないもの。

もしこの瞬間に同じことが起きないなんて保証はどこにもないし、そうなればやっぱりパパとママが心配になってすぐに帰りたくなる。
数十年ってことはもう会えないってこともありえるし。

話をきいているだけで不安になってきた。



「太郎を連れて出会った過去に戻ったが、それでも時間はずれていてな、数十年も経っている状態だった。太郎の家族はすでに亡くなっていたし、体も眠ったまま年老いていた。あいつは嘆きながら自分の体に戻っていったよ。家族はいないし、死ぬまで乙姫にもあえないってな」


そっか。
それが開けてはいけない玉手箱の元になったんだ。

乙姫が恩を仇で返したわけではなかったんだ。

< 229 / 328 >

この作品をシェア

pagetop