猫の湯~きみと離れていなければ~

虎は眉間にしわをよてせつらそうな顔をしている。

大切な乙姫と太郎を悲しませてしまったことをずっと苦しんでいるのね。

愛する人も家族もいない世界で太郎は一人、どう過ごしたんだろう。
そんな太郎を残して帰ってきた虎はどれだけ心を痛めているんだろう。

想像すらできないけど、涙が出そうになる。


「あれからこちらも数十年過ぎているが、太郎はいまだに戻ってはこない。仙人やら鶴になったと言われてはいるが所詮は物語だ。俺もあのあとに時間を狂わせてしまったことでいろいろとあってな、そのまま太郎の消息を見失ったままでいる」

「亡くなっているのなら、天国とか探しにいけないの? 」

「当然、何度も出向いて問い合わせはしたんだが、個人情報保護法というやつで天国も地獄も教えることはできないそうだ。探偵も雇ってはいるのだがな」


死語の世界でもそんな法律があるんだ。
猫町への観光といい、亡くなっても人間の生活ってあまり変わらないのかもしれない。

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