猫の湯~きみと離れていなければ~

「姫様、このような所に足をお運びいただかなくても」


姫様と呼ばれた悲しげな表情をしている“この人”が、どうやら乙姫さまっぽい。

きっと猫又が人の姿に変身しているのだろうけど、天女のような羽衣をまとっている姿はとても美しい。

物語に出てくる『乙姫さま』そのものだから、太郎が正確に伝えていたんだと思う。


「虎よ、これはどういうことじゃ? 」

「この鈴という者があの猫玉を持っておりますので、お譲りしていただけないかと交渉中でございます」

「はっ? 」


思わず大きな声を出してしまい、この場にいる全員の視線を集めてしまった。

やっぱり注目されるのって苦手。

わたしは寝ぼけまなこの倫の頭に顔をふせた。
さっきよりたんこぶの大きさは小さくなっているみたい。


それにしても交渉中?

誘拐したあげく『おとなしく差し出せ』って言っていたのはどこの誰よ。
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