猫の湯~きみと離れていなければ~
「そのような物はいらぬと言ったであろう。客人にこれ以上の無礼を重ねることは許さぬぞ」
「しかし姫様、」
「そなた鈴と申したな? 」
乙姫は虎には耳を貸さずにわたしに話かけてきた。
「帰られる前にもう一度聞いてもよいか? そなたは太郎が帰って来ぬ理由をどう思っておるのじゃ?」
「…えっと」
子供のときから知っている人だけど、初対面の人にどこまで言っていいのかわからない。
困って口ごもってしまう。
「遠慮はいらぬ。そなたの気持ちや考えを聞きたいのじゃ」
わたしの視線に気づいた虎がうなずいたから、言ってもいいってことだよね?
「…会いづらいときって、わたしの場合は自分の心をまもりたいときです。相手から嫌われたり拒絶されるかも、って勝手に思いこんで恐くなって避けてしまう…」
なのに久しぶりにあった陽向はよろこんでくれて、笑って迎えてくれた。
「その気持ちはよく分かるぞ。愛する者に嫌われることほど悲しいことはないからのぉ」
「おほほほ」と、袖で口を隠してあきらめたように笑う乙姫は今にも泣きそうで、悲しみを背負っているのを感じる。