猫の湯~きみと離れていなければ~
「わたしたちの世界では『乙姫さま』は美しい女性だと思われているし、あなたはおとぎ話に描かれている『乙姫さま』そのままなんです」
「それは太郎がそう伝えているからのぅ」
「分かりませんか? 恨んでいたり許せない人のことを美しいと伝えるわけがないと思うんです」
だって女将の遇はあなたのことを『厚化粧の化け猫』と呼んでいる。
なんて、口が裂けても言えないけれど……。
「……確かにのぅ。しかしそれは亡くなる前の推測であろう」
乙姫の悲しそうな返事。
彼女の中ではもうあきらめているのだと思う。
でも次に進む気もないだけ。
この人はわたしと似てるかもしれない。
傷つくのが怖くて自分からバリアを張って、閉じこもっている。
「もちろん推測です。もう1つわたしの推測をつけくわえますね」
「申してみよ」
「龍宮城が繁盛しているって噂を聞いて太郎さんが『自分がいなくても大丈夫なんだろう』って思っているとかは? 」
「…にゃ?」
あ、にゃって言った。
やっぱり乙姫の正体は猫っぽい。