猫の湯~きみと離れていなければ~
「わたしは傷つくのが怖くて好きな人を傷つけたの。自分から諦めることができなくて、彼がわたしを嫌ってくれればそれが一番楽に諦めれると思ったから。だけど、結局はそれも彼に頼っているだけ…」
「恋とは愚かなことをさせるものよのぉ。…のぉ、鈴よ。ではわらわはそなたの為に勇気を出してみようかの」
「…わたしのため? 」
顔をあげたわたしに乙姫は微笑んだ。
「不思議なものよ。自分のこととなると何もできぬが、そなたの気持ちをと思うと勇気が出てきたぞ。それに家族に同情されるのもいい加減うっとうしくなってきたしのぅ」
「うっとうしいのはこちらの台詞ですよ、まったく。毎日毎日飽きもせずに泣かれていては、従業員の士気も下がるというものです」
うれしそうに皮肉を言いなが虎が側にやってきた。
「鈴よ、姫様の笑顔を久しぶりに見た気がする。感謝するぞ。そして『自分のことは棚にあげた説教』、よかったぞ」
「悪かったわね、自分のことなんて自分が一番分からないものなのよっ」
大口をたたいてしまって恥ずかしい。
けれどわたしたちは、もちろん倫とブラックシャークも一緒に笑いあった。