猫の湯~きみと離れていなければ~
「なに笑っているんだいっ、早く鈴からお離れにゃっ!」
遇は今にも襲いかかってきそうになっているけれど、乙姫はなんとも思っていないようで、見向きもせずに落ちついている。
それがまた遇の怒りを増幅されているようだった。
「騒々しくてかなわんな。鈴よ、また話そうぞ」
「うんっ」
乙姫はわたしにもう一度微笑むとぐいっと引き上げてくれた。
わたしは大きくなった遇の側に寄ると、小さくなーれと思いながら手をグイグイと引っ張った。
「遇さん早く帰ろ? わたしお腹すいちゃった」
「可哀想に、怖かったねぇ」
元の大きさに戻った遇はわたしをしっかりと抱きしめてくれた。
「むかえにきてくれてありがとぉ」
「当たり前じゃないか。…倫っ! さっさと戻って鈴の食事の用意をしてきな」
「はいにゃ」
うれしそうに勢いよく飛び出し行った倫。
本当に遇からお仕事を任されるのが楽しくて仕方がないみたい。
しかしすぐに外から「シャー」「ニャギー」と言い争う声が聞こえてきた。
とうやら外で仁と鉢合わせしてしまったらしい。
「かまわなきゃいいのに」
「かまわなきゃいいのにねぇ」
同時に同じことを言った遇とわたしは、顔を合わせるとうれしくなって笑いあった。