猫の湯~きみと離れていなければ~
「それにしても長、よくここが分かったな。誉めてやろう」
虎は副会長を見下したように不敵に笑っている。
副会長はあきれたようにフンッと鼻で笑い返した。
「鈴が入った檻を包み隠さずに町中を滑走しているんだ。目撃情報とたれ込みが満載だったぞ」
「…くっ」
もしかして虎は悔しがってるの?
バレないと本気で思っていたの?
誘拐実行犯のブラックシャークは顔すら隠してなかったのに?
猫って、…いや、ここの猫たちだけかもしれないけれど。
真剣なんだけれど何かが抜けていてるよね。
そこがまた可愛いんだけど。
「それにしても乙姫よ。今回は俺に免じて許してはもらえるか? 」
「よいよい、気にするでない。こちらも悪かったでのぉ」
副会長が乙姫に頭をさげると、乙姫は「おほほほ」と笑った。
「はぁ? なんで長さんが謝るんだいっ! 」
そんな2匹を見てまた遇が吠えはじめた。
確かに、誘拐された側が誘拐した側にあやまるなんて。
「では女将、猫の湯に請求がいくことになるが…」
そう言った副会長は、壊れた扉の側でそろばんを弾きはじめた虎に視線を送った。
パチパチと加算される音が部屋中に響いている。