猫の湯~きみと離れていなければ~

宮はわたしを安心させるように微笑みながらドライヤーを置くと、壁にかけてあるわたしの制服を丁寧に運んできた。


ブラウスにもスカートにもシワが1つもない。
浴衣に着替えるときに放り出したままだったのに。


「仁兄様のクリーニング技術は天下一品ですにゃん」

「これ、仁がやってくれたの? 」


だから仁はお祭りに行かなかったんだ。


仁には意地悪な印象しかなかっただけに少しだけ見直したかも。


りんご飴ぐらいで倫に襲いかからなくても。
大人げない猫ねっ


て思ってごめんなさい。


そう心の中であやまった。

面会の帰りに、副会長にりんご飴を買ってもらわなきゃ。



ブラウスに袖を通すと、糊がほどよく効いていて着やすい。
ブレザーは入学式のときは息苦しくてしかたなかったのに、今はそれがほどよい緊張感になって気持ちが引き締まる気がする。



「ねーねー、すずー」
「おなかすいたよー」


引き締まった気持ちを崩すかのように、可愛いらしい声がスカートの裾を引っ張った。


「あんなにお魚も缶詰ももらっているのに? 」



呆れたように笑ってしまったわたしを見て、宮は目を見開いて驚いている。
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