猫の湯~きみと離れていなければ~
「お待たせにゃっ」
スッパーンと障子が開き、倫が勢いよく入ってきた。
「おにぎりー」
「おにぎりー」
金と銀は目を輝かせて立ち上がり、倫の持っているお盆に釘付けになっている。
さすがにこれは落ちてしまうので、わたしは2匹の背中の着物をぐっと手で掴んだ。
「そんな所で遊んでいたら危ないにゃ」
そう言うと、倫は運んできたお盆を宮に渡した。
「早く降りるにゃ」
そして他の座布団をさっさとよけて金と銀を畳の上に下ろすと、2匹の手を丁寧におしぼりで拭きはじめた。
「これできれいになったにゃ」
「倫は5匹兄弟の長男だったから面倒見がいいにゃん」
宮が持っているお盆には、小さめに握ってあるたくさんの鯛めしのおにぎりがのせられている。
倫が1つずつ金と銀に渡すと2匹はよほど食べたかったのか、「せーの」と息をそろえてかぶりついた。
あっという間に2つも食べて、小さなお腹がぽんぽんにふくれてしまった。
でもまだ食べたそうで、肉球についた匂いをなおごり惜しそうにペロペロとなめながら倫とわたしを見つめてくる。