猫の湯~きみと離れていなければ~

倫が信じられないという顔をして猫玉を眺めていると、遇がうれしそうに近寄っていって頭をなでた。


「倫、でかしたよぉ。これで猫の湯も安泰だねぇ」

「……」


しかし倫はなにも答えられない。



「女将、これは倫が貰ったものだ。倫がどう使おうが口を出すな」


副会長がピシャリと女将にいい放った。


「ああ、そうだねぇ。そんなことは分かっているけどねぇ」


でも遇は未練たらたらで猫玉を眺めている。


「倫、知ってのとおりそれはお前の願いごとも多少は叶うものだ。働かずに遊んで暮らすとか、仁をここから追い出したりネズミに変えてしまうことぐらいなら簡単にできる」


口を出すなと言った副会長がさっそく口を出すと、仁がビクッとなり、そして耳と頭をおさえてガタガタと震えはじめた。

妹の宮が心配なのはわかるけれど、それ以上にさんざん意地悪をしてきているのだから、倫から恨まれていてもおかしくはない。

追い出されるのも問題だけれども、ネズミに変えられてしまうなんて絶対避けたいはず……



でも副会長の言葉は倫にではなく、仁に「やり過ぎだ」と釘をさすように言っただけだと思う。

だって倫がそんな猫じゃないのは、みんなが分かってるから。

< 262 / 328 >

この作品をシェア

pagetop