猫の湯~きみと離れていなければ~

「おい、もう行くぞ」


もう少しだけ見ていたかったのに。


見慣れているのか、まったくこの景色に感動をしていない副会長にうながされ、わたしはしぶしぶと最後の一段を昇った。


鳥居をくぐるとそこには石畳の境内と、手水舎。
真正面には松明に照らされて浮かびあがる、長い年月の経っていそうな、でも手入れされていて古びてはいない本殿と賽銭箱。

そして本殿の右側には学校の楠と同じぐらいに巨大な楠のご神木があって、しめ縄が結ばれてあった。

よくありそうな雰囲気の神社だけれど、やっぱり猫の町。
狛犬のかわりに、狛猫が置かれていた。



「どこへ行く? こっちだ」


本殿へと向かおうとするわたしを副会長が止めた。


「…参拝しないの? 」

「今日は必要ない。それにお前を呼ばれたのは凰様であって、今ご本殿にいらっしゃるのは鳳様だ」


副会長は石畳を外れ、本殿の左側の砂利道を進みはじめた。

鳳さま凰さまと言われても区別がつかないし。
絶対にまたわたしのことをバカって思っているに違いないんだから。

金と銀の寝顔をみて気分をいれかえると、わたしは副会長のあとに続いた。
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