猫の湯~きみと離れていなければ~
「おうさまのにおいー」
「どこー」
金と銀がぼーっとしながら目をさました。
2匹は同時に大あくびをすると腕からぴょんと飛び降りて、わたしのスカートの裾をにぎると御神木の側まで引っ張っていく。
「急にどうしたの? 暗いから危ないよ」
「ここー」
「おしてー」
「…ここを押すの? 」
金と銀がつま先で立ちながら「うーん、うーん」と御神木を押しはじめた。
押すといってもなんのへんてつもない木の幹。
寝ぼけているって感じでもないし、合わせてあげる方がいいような気がして、わたしは金と銀の手の上をぐっと押してみた。
――― ギギーッ
どこにも切れ目なんてなかったのに、幹はきしみながら扉のように開き、中から明るい日差しが漏れてきてわたしたちを照らした。
金と銀はうれしそうに中に飛び込んで行き、副会長も呆然とするわたしを追い越して入って行ったので、慌ててあとに続いた。
幹の中が別の世界になっているみたいで、晴れ渡る水色の空と色とりどりの花に溢れた平原がどこまでも続いている。