猫の湯~きみと離れていなければ~
――― パタン
後ろから扉が閉まる音がしたので振り返ったけれど、同じ景色が続いているだけで、扉はどこにも見当たらない。
でも「猫の湯に帰れなくなった」みたいな不安はおきなかった。
というか、わたしが帰らなくてはいけない本当の場所は、家なのに。
たった1日居ただけなのに猫の湯を自分の家のように思っている自分に驚き、そこまで思わせてくれる遇たちの愛情がうれしくなる。
蝶々を追いかけはじめた金と銀を見ながら、わたしは副会長にたずねた。
「わたし、死んだの?」
「…にゃ?」
質問が唐突すぎたのか、副会長は思わず『にゃ』を使った。
「だって、一面のお花畑って天国ってイメージだから」
「足を見ればわかるだろ? 」
すっかり忘れていた。
わたしは足元から銀色の糸が出ているのを見て少し恥ずかしくなってしまった。
「お前の持っている知識で、全てを当てはめようとするなよ。だいたいお前たち人間はなぁ、あ、あ、やめ、ゴロゴロ~、ゴロゴロ~」
相変わらずの上から目線の口調。
でもこんな美しい世界で副会長の嫌味なんか聞きたくない。
わたしは副会長ののどを、くすぐるようになでて黙らせてみた。