猫の湯~きみと離れていなければ~


そのとき、一陣の強い風が吹きつけてきて、周囲の花を揺らした。


副会長をなでる手を止めて、髪をおさえながら空を見ると、そこには夕方に見た鳳凰がわたしたちを見下ろしながら、ゆったりと翼を羽ばたかしていた。


「おうさまー」
「おうさまー」


鳳凰はピョンピョンと飛び跳ねる金と銀の元に降り立つと、同時に“人”の形へと姿をかえた。


鳳凰は金と銀の頭を優しくなで、わたしに向けたその美しい顔は、全然似ていないのに『ママ』って思ったほどに安心する優しい微笑みをしている。



金色の糸で花や蝶が施されている赤い打ち掛けはとても長く、鳳凰の長尾を想像させ、肩までの黒髪をサラリサラリと揺らしながらゆったりとこちらに歩を進める姿は、しなやかなのに力強さを感じた。






「凰様、こちらが風森 鈴でございます」


副会長はわたしの目の前で立ち止まった鳳凰に紹介すると、静かに数歩あとにさがっていった。



「鈴、ようやく会えました」


そう言ってもう一度微笑みなおす鳳凰。

ようやくか……

やっぱりこの方がわたしを猫町に呼んだんだ。

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