猫の湯~きみと離れていなければ~
『ようやく』ということは会うことを望まれていたことになるんだろうけれど、神さまがわたしに会いたがる理由なんてどこにもあるわけがない。
「どうしてわたしは呼ばれたのですか? 」
「こちらを覚えていますね? 」
鳳凰は困惑しているわたしにそう言うと、側にいた金を優しくなでた。
その瞬間、金は白黒の子猫へと姿をかえた。
「…猫ちゃん」
子供のときに陽向と育てた子猫で間違いない。
でもどうして鳳凰さまが猫ちゃんのことを知っているの?
鳳凰はもう一度、金をなでて元の姿に戻すと悲しそうな顔に変わってしまった。
「彼はわたくしの家臣で流(るう)と申す者。この金銀と兄弟のように育ちました」
猫ちゃんが鳳凰さまの家臣?
「流はとても好奇心旺盛な子でした。あるとき、わたくしが目を離した隙に貴女の世界へと遊びに行ってしまったのです。…そして戻ることはありませんでした」
そう、戻るはずはない。
鳳凰さまの大切な家臣は、わたしの無責任さが殺してしまった。
これ以上鳳凰さまを見ていることができずに、わたしは逃げるように顔を伏せた。
なんと言えばいいのか、どうお詫びをすればいいのか分からない。
緊張で冷たく震えだした手をぎゅっと握りしめると、爪が手のひらに食い込んでじんわりとした痛みが走った。