猫の湯~きみと離れていなければ~
「ごめんなさい」
わたしは思わず顔をあげた。
…え? ……どうして?
謝ってきたのは鳳凰だった。
「貴女にずっとつらい思いをさせてしまいましたね」
その言葉は
心の奥深くに押し込んで忘れたフリをしていた思い。
カチカチに固く冷たくなって心を傷つけていたけれど、
その痛みさえ気づかないフリをしていた思い。
そんなわたしの思いにあたたかな光を射した。
本当は
誰かに気づいて欲しかった。
誰かに分かって欲しかった。
誰かに…、救って欲しかった。
でも『助けて』と伝える勇気がなかった。
「…わたし、……わたし」
鳳凰は、わたしが固く握りしめている手を優しくとると、引き寄せて抱きしめてくれた。
あたたかい
心が解けていく。
「…鈴、もう大丈夫ですよ」
わたしはうん、うんとうなずくと鳳凰にしがみつき声をあげて泣いてしまった。