猫の湯~きみと離れていなければ~
町は凰玉のように紅い光に包まれているけれど、空はまもなく朝を迎えるようで明るくなりはじめ、月は輝きを薄めていた。
さすがにこんなに時間に参拝する猫や観光客は誰もいなくて、境内は静けさに包まれている。
「お前、本当にそれでよかったのか? 」
副会長がもったいなさそうに聞いてきた。
「うん。どうして?」
「陽向は『もっと大きいのちょうだい』って凰さまに言ったんだぞ」
「…まったく。恥ずかしいんだから」
ねだる陽向と困る鳳凰さま、そして呆れる副会長の姿が目に浮かんでくる。
「まぁ、それだけお前を思っているってことだろう」
そんなことを言われると返事に困るじゃない。
副会長に照れているって思われるのもいやだし。
「ねぇ長さん。鳳凰さまは、本当は乙姫さまを気にかけてたんじゃないの?」
「どうしてそう思う? 」
「なんとなくー。さ、猫の湯に帰ろ」
わたしは副会長よりも先に階段を降りはじめた。
だってあのとき町で子猫を見なかったら、わたしは龍宮城には行かなかったと思うから。
宮も倫も同じ模様の猫を知らなかったし。
きっとあの子猫は金か銀のような気がする。