猫の湯~きみと離れていなければ~

「あたし瀬戸 祥子(せとよしこ)。あなたどこの中学出身?」


イスに腰かけたとたん、隣の席の女子生徒が話しかけてきた。


ショートカットで活発そうな彼女は、見るからに明るく人懐っこい感じがして、初対面なのに好印象を持てる。



「風森 鈴です。この春に県外から引っ越してきたの。子供のときはここに住んでいたんだけど」


わたしは会釈を返しながら軽く微笑んだ。

多分、今の笑顔は普通だったと思う。


「じゃあ1人? 」


1人?

その意味が分からずに首をかしげてしまったけれど、彼女はおかまいなしにしゃべりはじめた。



「あたしねー、仲好しの友達とクラスが離れちゃって、心細いし話し相手がいなくてどうしようかと思ってたんだ」


なるほど、そういう意味での1人ってこと。

その気持ちなら理解できる。
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