猫の湯~きみと離れていなければ~
莉子は丸い形をした小箱を渡してくれた。
そのパッケージは隣町で話題になっているクッキー専門店のもの。
「ありがとう。…ここって並ぶの大変だったんじゃないの? 」
「昨日、学校の終わりに陽向くんが付き合ってくれたから気にならなかったわ」
陽向をすごく意識している言い方。
やっぱりまだわたしを警戒しているのを感じる。
でも莉子にもちゃんと話をしないと。
「鈴が元気そうだから安心した。私、もう仕事の時間だから行くね」
微笑みながら向きをかえる莉子の仕草は、それだけで映画のワンシーンを観ているみたいに綺麗だと思えた。
「待って莉子っ」
「なに、どうしたのっ? 」
緊張で少し大きくなってしまった声に、莉子が驚きながら振り返った。
「…少しだけ話せる? 」
ここで怖じけづけば何も変わらない。
わたしはわたしの気持ちを大切にしたいだけ。
「わたしね、…莉子に嘘をついていたの。ごめんなさい」
「……嘘? 」
莉子は黙ったままわたしの“嘘”の内容を待っている。
けれど、なかなか言い出せずにいるわたしの態度に勘づいたみたいで、少し怪訝そうに眉をひそめた。