猫の湯~きみと離れていなければ~
「よく考えて。告白されて困るのは陽向くんだし、鈴も顔を会わせづらくなるのよ? 」
「それは…」
「私は鈴のためを思って言っているの」
「本当に? ……そうは聞こえないよ」
『鈴のため』って言いながら、わたしの告白をやめさせそうとしているだけじゃない。
「わたしはわたしのために伝えなきゃいけないの。それが陽向のためでもあるから」
莉子は目を見開いて、言い返したわたしを見ている。
でも、ここで目を反らすわけにはいかない。
「なによそれ? …陽向くんのためってなんなのよ」
莉子はそう言うと、力なく頭をふりながら大きく息をはいて両手で顔をおおった。
「だから、…だから鈴が戻ってくるのが嫌だったのに…」
小さな声でつぶやいた莉子。
やっぱりこれが莉子の本心なんだと思うと悲しくなってくる。
しばらく沈黙が続いた。
門の外では莉子のマネージャーが腕時計を何度も確かめながら、こっちを見ている。
「あー、もうやめやめ。……私ね、本当は陽向くんと付き合っていないの」
ようやく顔を上げた莉子は、開きなおったように言い放った。