猫の湯~きみと離れていなければ~
「…告白するのを教えたのは?」
「そんなことも分からない? そう言っておけば、鈴の性格なら私に遠慮して陽向くんをあきらめるに決まっているでしょ? 」
莉子の思惑どおり、わたしは陽向への思いを閉じ込めることになったけれど。
でもわたしが陽向を好きでいようがあきらめようが、莉子がそんなことをしてくるのは何の意味もないはず。
「もしかして、陽向に気持ちを伝えていないの? 」
「だったらなに? 鈴に手紙を出したときにはもう、告白する気もなかったわ」
「どうして? だって莉子なら」
「失恋するのが分かっててわざわざ告白するわけないじゃない。そんなの私のプライドが絶対に許さないわ。だから、…だから陽向くんの側にいたのに。…振り向いて欲しかったのに…」
感情が高ぶってどんどん声が大きくなっていく莉子の目から、涙がボロボロとこぼれ始めた。
嘘をついてしまうほど、莉子は陽向のことを好きなのに。
莉子はずっと陽向の側にいて、ずっと思い続けていたのに。
離れていてもつらいけど、側にいるのに振り向いてもらえないのってどんなにつらいんだろう。