猫の湯~きみと離れていなければ~

わたしも転校したときは、新しい学校に馴染めるのかどうかが不安で仕方がなくて、転勤になったパパのせいだってほんの少しだけ恨んだし。


自分から話しかけて友達を作る勇気がなくて、誰かが話しかけてきてくれるのを席から動かずにじっと待っていた。


そういえば、ようやくクラスに馴染んだころにパパとママが『引っ越しで一番心配だったのが鈴に友達ができるかどうかだった』って話してくれたっけ。


この高校にも転校前の同級生が何人かいるかもしれないけど、幼かったし6年も前のことだから顔も覚えられていない可能性の方が高いし。


きっと今日だって彼女が話しかけてきてくれなかったら、あの時のように机にじっと座っていたままだったと思う。



あれ?

…本当にそう思っていたっけ?


ううん、思っていなかった……


ああ、そっか。


この引っ越しで不安じゃなかったのは、陽向がいるって分かっていたからかもしれない。



『陽向がいるから心配ないでしょ』ってママが言っていたのは、わたしが馴染めないとか友達を作るのに時間がかかると思っているからなんだろうな。



そうじゃないんだけど。

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